数週間ほど前、窓側にお袋、その手前にはNさんのベッドが今あるように並んであった。
お袋がその85年半年と19日の生涯で、最後に出会ったひと周りほど歳下の人、でも姉のような優しさで見守って頂いた。
体の具合が悪く、また不自由なのに、無理して自力でトイレに行こうとしてベッドをずり落ちたお袋を助け起こしたり、夜中に息苦しさに悶えるお袋を見てすぐにナースコールをしたり、話し相手にもなってくださつたNさん。
検査か何かでお袋が病室にいなかった時に私にそっと、「お母さん、家族に恵まれ幸せやって言ってやったで」とも教えてくれた。
「ようお世話になったさかい、ちゃんと御礼言うといてや」
この病室からICUに移る際にお袋はそう言っていた。
それから病態が急激に悪化し、あれよあれよと言う間に亡くなってしまって、葬儀や何やら悪夢でも見ているかのように日々が過ぎていった。
糖尿病克服にとフロアを歩き回っていたNさんに売店で赤いスリッパを購入してノコノコ今頃やって来、通路にいた看護師さんに訊くと、もう大分前に元気に退院されたという。
もう要らなくなったスリッパを微笑みながら眺めた。